阿波の鳴戸

 むかしむかし、阿波の鳴戸 (徳島県の鳴門海峡の海潮の渦巻き)が鳴り出して止まらないことがありました。
 今帝様(その時の天皇) のおふれがあったので、越前の杣山の神主がこれを止めようとして京都に上りました。

ところが泊った宿のとめ女(給仕女)が神主に、
 「鳴るのをどうして止めるのですか。」
と聞きました。神主は、

 「三十一文字で止めるよ。」
と答えました。女はまた、

 「歌には題がありましょうね。」
とたずねたので、神主は、

 「題は草みたいなものだ。」
といいました。

 それから神主が阿波に行きましたところ、鳴戸はすでに、鳴りが止んでいました。

  山畑に 蒔かずに生えし せのこ草
  粟になれとは 誰がいうらん (粟になると阿波に鳴るがかけてあります。)

 高札にこう書いてありました。

「さてはあの女に歌をぬすまれたな」とわかった神主は、

 京に出て上の御文字をぬすまれて
  泣く泣く帰る杣山の禰宜(神主)

 神主も高札にこう書いて帰っていきました。
 
 とめ女は小野の心町(歌人)で、神主の歌は、女の道を封じた意味を持つ歌だということですとさ。