侍と化けキツネ

 むかし府中(武生)のある家中 (侍) のところへ、キツネがやってきて、
 「実は村国山に、油揚げをえさにしてわながかけてあります。食べればわなにかかることはよく承知していますが、もしつかまえられたら、あなた様のご威光で、私をもらいに来て下さい。」
 と頼みましたとさ。

 その時都合の悪いことには、来客がありました。そのため約束の時間よりも二、三十分ほど遅れて行ったら、今一歩で殺されようとするところでした。しかし危ないところを助けてやりました。

 その後で キツネが来て、
 「お礼に何かお望みの物をさし上げたいと思います。」といいました。
侍は、「日野川原で、【宇治川の先陣】「源義経に従って佐々木高綱と梶原景季という武士が頼朝から与えられた馬に乗って、宇治川を渡るとき先陣を争った物語」をやってみせてくれ。」 といいました。そしたら、
  「では、村国山に登って見ていて下さい。」といいました。

 そこで殿様はじめ、みんなにこのことを披露して、見物に出かけました。
 しかし、約束の時間が来ても、いっこうに始まらないので、侍は殿様に面目がないとして、今にも腹を切ろうとしました。ところがその時、川原の方でチンチンドンドンと、【宇治川の先陣】の実演が始まりました。侍はやっと、ほっとしました。

 後で、
 「おそまつさまでした。」と、あいさつに来たキツネに、侍が、
 「なんであんなに、切羽詰まるまでやってはくれなかったのだ。」
と聞いたところ、キツネは、

 「それは畜生のあさましさというものです。恩は恩で返し、仇は仇で返すものです。あなた様も(ぎりぎり)いっぱいのときにしか、来て下さらなかったから、私も時間いっぱいぎりぎりで、お返ししましたのです。」
と申しましたとさ。

 ソウライ ソウライ べッタリ牛ノクソ