うばすて山

 昔、年寄りを山へ捨てるのが「おきて」であったことがありましたと。

 ある男の父親が年寄りになったので、山に捨てられることになりました。むすこの背中におぶさって山を登って行きました。道々、その父親は背中から手を伸ばして、所々の木の枝の先をポキンポキンと折りました。むすこはふしぎに思って、何のためにそんなことをするのかと、その訳をたずねました。
 父親は笑いながら、お前が帰るときに道を迷わぬように、道しるべにするのだといいました。むすこはそれを聞いて、子を思う親心の有難さに感動しました。そしてどんな「おきて」があっても、こんなよい親を捨てることは出来ぬと、道を引返して家へ連れて帰りました。だけど人目についてはいけないし、役人に見つけられるとひどく罰せられます。

 むすこは他人にわからないように、床の下に穴を掘って父親を隠しておきました。
 ところでこの男の女房は大へん美しい人であったので、その評判が殿さまの耳にはいりました。
殿さまは男を呼び出して、三つの難題を申し渡しました。もし解決できなければ、女房を殿さまの所へ奉公に出すようにと命じました。

 第一の難題は灰でなわを作ることでした。男は困ってしまい、父親に相談しました。すると、
 「なわを塩水で湿めして、それから焼けばよい。」と教えてくれました。
 その通りにしたら、なわがひきしまって、固い灰のなわが出来ました。それを殿さまに見せました。

 難題の第二は、玉の穴にひもを通せよというのでした。ところがその玉の穴は曲りくねっていて、ひもが通りません。むすこは困って、また父親に相談すると、
 「玉の穴の片方に蜜を塗り、反対の側からアリを入れる。そのときアリの腰に細い糸を付けておく。それが通ったら細い糸に太い糸を結びつける。それも通ったら今度は、太い糸にひもを付けて通すがよい。」と教えてくれました。
その通りにして殿さまの所へ出しました。

 第三の難題は、四角い柾目の板を出して、この板のどちらが根の方で、どちらが木の末であるか当ててみよというのでした。むすこはやはり困って、父親に相談すると、
 「板を水につければ、根の方が重いから少し沈む。その方が根であることがすぐわかる。」と教えてくれました。
その通りにして、殿さまに答えました。

 たいへんな難題の三問をみごとに解いたので、殿さまはびっくりしました。余りにふしぎなので、どうして考えたかとたずねました。男はありのまま正直に、父親に教えてもらったことを詳しく話して、「おきて」を守らなかったことをあやまりました。
 すると殿さまは怒られるどころか、老父の知恵にすっかり感心されて、
 「年寄りは国の宝であるから、大切にいたわれよ。今後は山へ捨てないように。」
 とおふれを出されました。

男はさっそく父親を穴から出して、女房とともに大切に世話し、家内そろって仲よく暮らしましたと。国中の年とった親を持っていた人たちも、年寄りを山へ捨てなくなり、みんな親を大切にして、親子一緒に暮らすようになりました。